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商工ニッポン 03年11月号

経営者列伝

草食動物

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死角を生かす気くばりミラー

「企業経営は弱肉強食の世界だと言われる。だが本当にそうだろうか。自然界には、いつの時代も草食動物が肉食動物の何倍も生きている。企業も草食動物的な生き方をするほうが、むしろ普通なのではないだろうか」

コミーの小宮山社長は、自身の経営哲学をこう語る。同社はコンビニエンスストアや書店などの店舗内にある万引防止用ミラーや、駐車場出入り口やエレベーターなどの安全確認用ミラー、飛行機の手荷物入れの内部に貼られた忘れ物防止ミラーなど、凸面ミラーのトップメーカーだ。コンビニ用ミラーでは80%以上のシェアを誇る。

だがいずれも、市場規模は大きくても1億円程度という超ニッチ市場ばかり。しかも一度取り付けると、10年は買替え不要な分野ばかりだ。そのためコミーでは、新技術の開発に努めると同時に、工場や倉庫、病院などに設置を提案するなどして、新たな市場を次々と創り出している。まるで、草食動物が毎日エサ場を変えて、1年経ったら再び最初のエサ場に戻ってくる姿によく似ている。

「DNAのタイプには、競争が好きな人と、競争を避けて逃げ出すことを考える人の二通りがある。私は明らかに後者だ」

このタイプ分けも、肉食動物的か、草食動物的かと言い換えることができる。草食動物的生き方は、単に経営哲学に留まらず、小宮山の人生哲学そのものでもあるようだ。

回転する看板、なぜ売れた?

小宮山は大学卒業後、日本精工に就職する。だが、「自分に能力がない」ことがわかって3年半で退職。大卒エンジニアに期待される部分と、自分ができることとのギャップに疲れ果てての退職だったと言う。だが、実際は社員がみなライバルである大企業という競争社会にいることに居心地の悪さを感じていたのではないのか。

退職後は、自動車修理工場勤務など職を転々とする。あるとき、シャッターに文字を書く商売があることを知り、「文字を書いてメシが食えるのか。これなら俺にもできそうだ」と考え、看板業『コミー工芸』を設立。朝、街がまだ眠っている頃にシャッターに文字が書かれていない銀行などを探し、昼間に営業。夜、店舗が閉まってから仕事をして、翌日集金する。看板作りの仕事も次第に入ってきた。

「志なんて何もない。喰って、生きていければよかった」

転機は偶然やってきた。ある日、羽田空港で日本精工時代の友人A氏にバッタリ会った。そのころ作り始めていた、キャバレーなどの店頭に置く回転看板が、人が強く触るとモーターが壊れ、触った人間もケガを負いかねない問題が起きていた。A氏は改良のアイデアを出した。小宮山はすぐに特許を取り、壊れない回転看板を売り出した。シャッターの文字書きは開店休業状態になった。

偶然は再びやってきた。まず、ある業者が回転看板で使えないかと、小さなモーターを持ってきた。さらに別の会社が、回転看板に組み込んだらと、丸形凸面ミラーを置いていった。小宮山は2枚のミラーを貼り合わせて中に小型モーターを入れ、チェーンで天井から吊して回すディスプレイを製作した。回転ディスプレイを見本市に出品するとこれがなぜか大量に売れた。

「30個もまとめて買っていくスーパーがあった。何に使っているんだろうと、店舗に伺ってみると、万引防止用に店内のあちこちに吊していた」

用途をユーザーに教えられたこの回転凸面ミラーは、すぐに主力商品になった。

「万引」を知ってもらう

偶然はまだ終わらない。ある顧客が回転型と回転しない丸型凸面ミラーの両方を作ってほしいと言ってきたのだ。本来ならばどちらか一つに集中すべきだ。だがコミーは両方を作ることにした。すると静止タイプのミラーのほうが用途は広く、瞬く間に主力商品になっていった。

「当社は代理店を通して販売している。が、最終顧客が何で買ってくれたのか、どういうきっかけで買ってくれたのか、さらにどんな用途でどのように使っているのか、購入現場、使用現場の声を先方に出向いて絶えず直接聞いている。他社との競争を避けるために、人との出会いを最も重視している」

A氏にはその後も技術的な相談に乗ってもらっている。会社近くの居酒屋で出会った税理士や経営者、雑誌編集者などとも、その時々に抱えている問題を素直に話すことで、貴重な提案や企業の在り方、マーケットの在り方などを教えてもらっている。出会ったさまざまな人と話をすることで、”エサ場”がどこにあるのかなどをいち早く探し出すことができ、それが競争しなくてすむ環境を作り出すことに繋がっている。

さらに小宮山は語る。

「他社と競争していると、商品を作ること、より多く売ることに集中してしまい、現場でどのように使われているかという事実が見えなくなってしまう。それが怖い。万引防止用ミラーであれば、まず万引が急増している事実、巧妙化している手口、万引によって店舗が被っている被害の実態、そして対策法の数々など、『万引の事実』を知ってもらうことがなにより必要。それこそが我が社のビジネスそのものだと思っている」

小宮山は出版社に働きかけて、『万引問題解決法』という本を出版した。自社のホームページにも、自社製品の宣伝とは関係なく、万引関連の情報を多数掲載している。

「万引対策は防犯ミラーがあれば完璧」などとは言っていない。各対策機器の得手、不得手を明確に示している。例えば監視カメラは記録性に優れているが、現場での死角解消には弱い。モニターを改めて見なければいけないからだ。対して防犯ミラーは死角を作らないが、記録性はないなどである。

「各機器の得意な点、不得意な点を現場の人が理解し、うまく組み合わせて利用することが必要。機器はそれぞれに役割が違う。メーカーは自社製品の不得意な部分も隠さずに発信していかないと、本当の意味で現場で役立つ商品にはならない」

競合機器とは役割も目的も違う。それを明確にすることで、不必要な競争を避けることもできると小宮山は言う。

市場は創り出すもの

コミーは現在、70種類以上の凸面ミラーを製造販売している。これらのほとんどは、コミーが「こんな用途に使えないか」とアイデアを出して試作し、エンドユーザーに持ち込んだものだ。

飛行機の忘れ物防止ミラーもそうした手法で誕生した。手荷物入れの内側に貼ったら便利なのでは、というアイデアが社内で出た。実際にニーズがあるかどうか、業界に詳しい人に聞くと、航空会社の人間を紹介しようと言う。購入責任者ではなく、現場の人を紹介してもらい、試作品を実際に取付けてみた。「こういうものが欲しかった。10年来の願いだった」と言われた。

92年に個人ユーザー用の小さなミラーボールを発売したことがある。が、半年もすると競合が2社現れた。

なんと疲れることか。

すると小宮山は、販売面ではまだ優位に立っていたにもかかわらず、撤退を決定した。そもそも個人向け市場に関するノウハウを持っていないということもあったが、何より嫌いな競争を避けたかったからだった。回転看板もほとんど撤退している。気くばりミラーと縁遠くなり、他社でもできるようになったからだ。

「競争するとそれだけで疲れてしまう。今の扱い商品はどれも市場が極めて小さい。まさに多品種少量生産。こんなに小さなところに参入しようという企業はまずいない」

草食動物は草を食べながら、付近に肉食動物がいないかと、目と耳と鼻を使って情報収集し、警戒を怠らない。そして近づいてきたと見たら、食べかけの草に未練を残さずいち早く逃げ出し、次のエサ場を探す。コミー、そして小宮山は、まさに草食動物そのものだった。

肉食動物が圧倒的に多い産業界では、肉食動物同士の戦いが毎日のようにそこかしこの大市場で繰り返され、戦いの後は死屍累々となっている。そうした戦いを尻目に、用心深く、逃げ足の早い草食動物が、しぶとく生き残っている。 (敬称略)