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朝日新聞 07年1月1日号

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朝日新聞 07年1月1日号 人と張り合うのが苦手だ。「世界に一つだけの面白いものなら、競争せずにすむ」

そんな考えで20年前、平面なのに凸面鏡のように広い範囲を映す特殊な鏡を開発した。その板チョコ大の鏡が、今秋就航する世界初の総2階ジェット機(エアバス社A380)の手荷物棚に取り付けられる。1機に約200枚。棚の奥の忘れ物や不審物のチェックに目を光らせる。

社長を務める埼玉県川口市の「コミー」は社員25人、年商約5億円の町工場だ。
信州大学卒業後、大手精密機械会社に入ったが、間もなく退社した。「脱サラならぬ『落ちサラ』。何をやっても落ちこぼれた」。社員3人で看板屋としてコミーを設立。遊び心で、天井からつり下げて回転する凸面鏡を作ったら、「スーパーの万引き防止にいい」と評判になり、25年前に鏡を主力に切り替えた。

総2階ジェット機につく鏡も、開発したはいいが、これといった使い道がなかった。約10年前、飛行機に乗っていて、ふと「中の見えにくい手荷物棚に使えるかも」。米ボーイング社に送った見本が担当者の目を引き、今では15以上の航空会社に採用される。

就航に向け、3万枚の生産に追われる年になる。でも「忙しいだけではだめ。物作りは遊び心から」。夕方5時には退社し、喫茶店でひとり、アイデアに思いを巡らす。その時間は譲れない。
(文 貞国 聖子 写真 佐藤 慈子)