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産業新潮 06年4月号

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万引きなどの防犯ミラー国内シェア圧倒的80% 世界水準の技術力を誇る

産業新潮 06年4月号表紙スーパーやコンビニエンスストアなどの店内で、天井の四隅などに取り付けられている防犯ミラー。
万引き防止に使われている業務用凸面鏡で国内80%と圧倒的シェアを誇る。
この凸面鏡並みの性能を持つ平面鏡「FFミラー」は航空機内で採用され、忘れ物防止などに役立てられている。防犯以外に安全確認や接客向上にもつながる「死角を生かす気くばりミラー」の用途拡大に力を注ぐ。

欧米の航空機メーカーが技術力を高く評価

コミー(埼玉県川口市)は従業員20数名の小所帯。しかし、その技術力は世界レベルにある。1997年2月、米ボーイングが
同社の平面鏡「FFミラー」の性能を高く評価、採用した。欧州エアバスも続いた。今年からはエアバスの世界最大の旅客機「A380」に標準装備される。

FFミラーは一見したところ普通の鏡だが、特殊なプラスチックを使い独自の表面加工を施すことで凸面鏡と同程度の広い範囲を写し出す世界初の平面鏡。機内の座席の上にある手荷物入れの中に張り付け、奥のほうや隅々など目の届きにくい場所に忘れ物がないか簡単にチェックできる。以前は客室乗務員が靴を脱ぎ座席に上がって探していた。また、離着陸などのシートベルト着用時に、客室乗務員が座席に着いたまま後方の客席の様子を確認するのにも使われている。

FFミラーの航空機向け出荷量は累計3万5千台を超える。欧米で特許も取得、事実上ライバルは存在せず、今後も着実な増加が見込まれる。

会社員として挫折 看板業からミラーへ

小宮山栄社長は大学卒業後、ベアリング最大手の日本精工に技術者として入社した。だが、仕事が思うようにこなせず次第に劣等感に悩まされるようになる。結局、3年ほどで退職した。

産業新潮 06年4月号の紙面(1)「頭が悪いというコンプレックスを持っていました。記憶力が悪いとか物覚えが悪い。サラリーマンとして役に立たない辛さをかなり味わいました」と小宮山社長は述懐する。

その後、自動車修理工場や百科事典のセールス、再び修理工場など職を転々とする。ある時、塗装工場で看板の文字書きという仕事を知り興味を抱いた。というのも、千円ほどの日給で働いていた当時、「サッサッとちょっとの文字を書いて5千円」という仕事がとても魅力的に見えたからだ。

さっそく知人に教わり技術を修得。塗装工場で働く傍ら、夜に時々シャッターに字を書く仕事を始めた。その稼ぎが次第に1回で3千円、4千円となり、「メシが食えるようになった」。そこで67年、独立し看板業に乗り出した。

ミラーとの出合いは偶然だった。モーターを使った回転看板に力を入れていた77年、凸面鏡を看板に付けられないかと置いていった客がいた。試しにと2枚を張り合わせて、天井からぶら下げクルクル回るミラーを製作した。「なんだかおもしろい」と、装飾用ディスプレー「回転ミラックス」と名付けて展示会に出展。思わぬ反響があり複数の企業から受注を得た。

その中に、30個注文したスーパーがあった。売れたのは素直にうれしいものの、どうにも腑に落ちない。ディスプレーにしては量が多すぎないか。どんな用途で使われているのか気になる。そこで数カ月後、小宮山社長はそのスーパーを訪ねた。内心、役に立っていなかったらどうしようかとの心配もあったが、返ってきた答えはしかし意外なものだった。
万引き防止対策だったのである。これがきっかけで防犯用ミラーの開発を始め、82年には看板業から撤退し防犯用ミラー専門に業態転換した。

この出来事は同時に、同社に大事な教訓を与えた。ユーザーの声の重要性に気付かされたのである。看板業を興した当初、新製品を出してもなかなか売れず思い悩む日々が続いた。開発する喜びが先走り、顧客のニーズを把握できていなかったのだ。

「だれも喜んでくれないようなモノをどんどん作って売ろうとしていた。売れない理由を推定するんじゃなくて、買ってくれた人に、なぜ買ってくれたのか、役に立っているのか、などを聞くことが大事なんです」

これは現在、同社が掲げる経営方針の柱である「相手の役に立つ」企業を目指すという考え方につながっている。

完成品在庫ゼロを実現

主力製品の凸面ミラーは特殊なアクリルでできており、360度見渡せるドーム型や楕円、四角などをベースに数10種類に及ぶ。多品種・少量・短納期の受注生産体制を敷き、設置場所や目的、大きさなど需要の多様なニーズにきめ細かく対応する。完成品在庫を持たず、部品在庫も極力削減しつつ、10個以下なら午後3時までに受けた注文は翌日に発送する。それを支えるのがNPS(新生産システム)とSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)を取り入れ、10年以上かけて構築した独自の生産システムだ。

産業新潮 06年4月号の紙面(2)NPSでは、1個でも10個でも生産コストをほぼ同じにするために流れ作業のライン生産から、一人ですべてを組み立てるセル方式に切り換えた。組立作業者が仕事を中断しなくてもすむように、専門の部品供給者を置き完全分業にいた。作業台や棚、機械なども使い勝手を考え内製化するなど随所に工夫を凝らした。

SCMは顧客から小売り、製造、部材供給など複数の企業をまたがって、製品の一連の流れを管理しなければならない。コミーが目を付けたのは、梱包用の段ボール箱だった。

ミラーは一箱に一個詰める場合もあれば複数個梱包することもある。よって段ボールの種類は製品の数以上に膨らむ。倉庫での段ボールの在庫確認は煩雑な上、いざ発送という段になって箱が足りないなどということも少なくなかった。そこで、段ボールも必要な量だけ必要な時に納品してもらうシステムづくりに取り組んだ。

段ボール業者に協力を仰ぎ、コミーの受注情報を共有する試みを始めた。コンサルタントも交えて段ボール業者と話し合いや勉強会を重ねた。コミーの実践例を生かしながら、共同で段ボール工場の整理・整頓や生産体制、在庫管理の仕組みを見直すなど改善に努めた。

半年以上を費やし、コミーが3時までに受けた翌日出荷分の注文について、30分以内に段ボール業者に発注、必要個数を翌日届けてもらう体制が整った。

防犯ミラーは役に立たない?

96年9月、事業の根幹を揺るがしかねない事件が発生した。小宮山社長は、たまたま手にした「万引き」に関する一冊の本に危機感を募らせた。同書は小売店での万引き防止に防犯ミラーは効果がないばかりか、むしろ悪いほうに活用されていると指摘していた。万引き犯はミラーで逆に従業員の動きをチェックしているというのである。そんなはずはない。事実、ミラーの販売は順調に伸びているのだから。小宮山社長は反発した。

「これはとんでもない誤解だと思いました」

一方で、しかし、とも小宮山社長は思った。冷静に考えてみると、本当に防犯に役立っているのか検証したわけではない。売れているから役立っているはず、と勝手に思い込んでいるだけではないのかと自問した。すぐに動いた。現場の声を集めるために奔走。警備会社の保安員や薬局、コンビニなどユーザーに直接話を聞いた結果、「ミラーが万引き防止に活用されているとの確かな自信を持った」。しかも、単なる防犯ではなく、「ある売場では、ミラー効果で女性店員が積極的に接客するようになり、結果的に万引き防止に結び付いた」といった効果があることも分かった。現在、コミーが自社製品を「死角を生かす気くばりミラー」と呼ぶゆえんである。

さらに手を打った。防犯ミラーの効果をより広く知ってもらおうとパブリシティに力を入れ、専門雑誌などに記事として取り上げてもらったり、万引きに関する書籍の出版を企画するなど積極的にPRに努めた。その姿勢は現在も続いており、同社のこれまでの取り組みをまとめた小冊子の発行や、小宮山社長自身が同社ホームページにコラム欄を持つなど情報発信に余念がない。

凸面ミラーの着実な伸びに加え、今後期待を寄せるのがFFミラーの用途拡大だ。中でも有望なのがエレベーター。外側のエントランス部分に取り付けることで、エレベーター内部で操作パネルを扱う人が、乗り込んでくる人の様子などを知ることができる。特に病院などでの「気くばり」に役立つとし、需要開拓を進める考えだ。

金融機関のATM(現金自動出入機)にはすでに浸透しつつある。背後の人の動きが把握でき、暗証番号を盗み見られるなどの被害を防ぐ。効果が認められ、国内で5万台以上のATMに取り付けられている。

業績は堅調に推移している。2005年9月期の売上高は約5億円で、前期に比べて10%程度増加した。ただ、小宮山社長は事業規模の拡大にはあまり関心がないという。

「一番幸せなことは自分のDNAを最大限に生かせる環境。コミーのDNAは売り上げの拡大より”出会いの喜び、創る喜び、信頼の喜び”にあります。金儲けそのものにはあまり興味がない。競争というのは合わない」

現状に満足しているわけではない。30数年かけて育て上げた「コミー」ブランドに、さらに磨きをかけるつもりだ。

「飛行機から広がったブランドは商品ですから。ブランド価値だけは上げていきたい。そうすれば自然に開発能力も高まるし、マーケティング力もついてくる」

小宮山社長は静かに闘志を燃やす。