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「オンリーワン技術より中小企業は売る力を磨け」は、壇上の空論? 誌上の空論?(2003.12)

あなたのいう「私は、経済産業省で長年、多くの中小企業を見てきたが、オンリーワン技術は必要条件の1つにすぎない」は、我々のような中小企業主にとっては正論のように見える。
しかし、あなたは「インクスや岡野工業はものづくりの技術にもまして、どういう相手にどんなものを作り、どうやって売るかという『売る技術』が優れている」と言っているが、間違いであると思う。
私は岡野工業社長のファンであり、氏の本を読んだり、テレビを見たり、講演を聞いたりしたことがある。
岡野さんの技術はオンリーワンであるから、皆が頼みに行くのである。その中で面白そうで社会に役立ちそうな仕事だけを選択して、やり遂げているのである。彼は商人でなく徹底した超一流の職人である。

以前、日本人と中国人をよく知る邱永漢氏(作家・多種多国籍経営・コンサルタント)は、「日本人は職人、中国人は商人」と言っていた。島国日本は、「ものづくり」で輸出し、資源や食料の多くは輸入して生きている職人のような国である。

職人に徹するには変な奴を遠ざける勘がなくてはならない。変な奴とはたてまえと本音が違っていたり、技術を盗もうとしている奴である。あるいは、経営者をおだてあげ土地に投資させて、あとは担保価値が下がったといって身ぐるみはがした奴らである。
こんなことは売る力があるというより、汚いツラをしているか輝いた顔をしているか、欲ボケしなければ小中学生でもわかる能力であると思う。中小企業主の多くは売る力が不足かも知れない。しかし、お客様がいなくなれば倒産し、倒産すれば「ホームレスや自殺などの地獄行き」ということを肌で感じていることは間違いない。税金で生活は保証されている人と基本的に意識が異なると思う。

あなたの発言は、我々が身体で学ばねばならない一流経営者のインクスや岡野工業などの経営者の言葉ではなく、今、我々が税を生み出しているのだが、それを配分しようとしている立場の人のものである。
あなたは自分のお客様は誰かを考えたことがあるだろうか。
あなたのお客様は国民であり、経営者のはずである。記事であなたが「マーケティング(売る力)こそ重要だと話すと敬遠されることが少なくない」とあったが当然である。あなたはお客様に説教していたのである。

これはあなたが親であり、中小企業主を自分が養っている子供と錯覚しているのではないだろうか。
あなたの記事でこんな例を考えてみた。
勉強嫌いな小学生の子供に向かって教育ママが、「勉強しなさい。そうすれば、良い大学へ入れるでしょ。AちゃんもBちゃんも勉強したから良い大学、良い会社、良い役所へ入れたのよ」と言っているような気がする。子供を思ってのことのように見え、子供にとっては反論はできない。だが、子供の将来の幸福を考える親ならもっと深く考え、こんな問題意識を持つべきではないだろうか。

  • 「今、子供は何故、勉強しないのだろうか?」
  • 「子供は何が得意で何が不得意だろうか?」
  • 「Aちゃん、Bちゃんは小、中、高、大学のどの時に一番勉強しただろうか?」
  • 「良い会社、良い役所へ入ったというが、本人は幸福だろうか?ストレスで心がガタガタになっていないだろうか?」
  • 「10年後、20年後はどんな時代が来るだろうか?」
  • 等々である。

半年ほど前、当時経産省のあなたの「中小企業経営者向けの講演」を聞いたことがある。昼の忙しい時で社員には悪かったが、官僚が今、何を考えているかに興味があった。内容は記事とほとんど同じであったが、残念なことは質問の時間がほとんどなかったことである。一方的な話で昔の大学の先生の授業と同じであった。

講演会の本来のあり方は、講師が話すだけでなく質問や雑談に時間をとり、お互いに学びあうものであると思う。講師は来場者に「話は役立ったであろうか?これからもっと役立つには?」と聞くのが、マーケティングの基本であると思う。私があなたの立場なら、「私はビジネスの経験はありませんが、日本の将来のためにこんなことを考えています」と講演し、
「納税者で経営者の皆さん。これについて率直な意見を言って下さい」
と質問し、経営の現場をよく聞くことに努めるであろう。

あなたも、自分の仮説が正しいと思ったら、元ボストンコンサルタントの堀さんみたいに自分で経営してみるのも面白いと思う。今は良い社会にしたいという「志」が高く、売る力があれば投資する人も協力する人もすぐ集まる時代である。
あなたの話は腕のいい職人に向かって「商売も考えろ。もっと儲かるから…」と説教しているようなものである。本当にマネージメントができる人なら、
「あなたの技術はすごい。もっと磨き、超一流にしてくれ。私が技術の泥棒や悪徳商人を防いだり、もっと世界の人に高く売れる方法を知っているボランティアの人々を探すから…」等々、職人を励ましてやり、自分で汗をかき、彼らの足りない点を補ってやるべきである。

私は今、マーケティングやマネージメントを勉強中であるが、あなたの講演を聞いたり記事を読んだ限りでは、あなたにはこれが不得手に思える。あなたは他の分野でもっと一流のものを持っているはずである。
あなたは確か講演会で、ドラッカーの言葉を引用していたが、私は若いあなたにドラッカーの言葉を送りたい。

「明日を支配するもの」ドラッカー名言集より

不得手なことの改善にあまり時間を使ってはならない。自らの強みに集中すべきである。無能を並の水準にするには、一流を超一流にするよりも、はるかに多くのエネルギーと努力を必要とする。

※マネージメントとマーケティングを学びたい方は、
小田島弘先生のコラムまたはマーケティング塾をどうぞ!
http://www.mug.gr.jp/mwmguide/column/odajima.html

http://www.mug.gr.jp/mwmguide/column/odajima/055.html

(日経ビジネス’03年12月8日号掲載記事に対しての内容です)