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車椅子から見たニッポン<連載No.4>

アリゾナで車椅子での乗馬体験記<マサ記>

面白バリアフリー情報との出会い

以前、障害者の旅行に関する団体などを調べているときに、たまたま見つけたホームページがあった。Access Able Travel Source。彼らは、高齢者や障害を持つ者が旅をする際必要となる、バリアフリーに関連する情報をホームページや、メールを通じて発信していた。Access Able Travel Sourceの中心的な運営をするのはBillとCarolの2人。奥さんであるCarolは車椅子を使用しているが、旅が大好きで、ご夫婦で旅に出かけることが多く、その過程で、障害がある者や高齢者に対応した情報が不足していることに気づき、自ら活動を始めたのである。

ある日、そのCarolから電話があり、「アリゾナに、バリアフリーで、乗馬が体験できる牧場ができたの。あなたの家からも近いし、宿泊施設もあってとても興味深い施設だから試しに行ってみて感想を聞かせてくれない?」というメールをもらった。乗馬などなかなか体験する機会がないだろうし、せっかくのチャンス、と思って訪ねてみることにした。

バリアフリーで乗馬体験できる牧場へ

その乗馬ができる牧場は、当時、私が住んでいたアパートから車で3、4時間ぐらいのところにあるアリゾナ州にあった。念のため、アパートを出発する前に牧場に電話をして詳細な情報を聞いておくことにした。「何かガソリンスタンドとか、グローサリーストアといった目印になるものはありますか?」と尋ねたところ、「ハイウェイの○○番の出口を下りたら、後は道なりだよ。これといった目印はないけど、なんとかなるよ。」と牧場のオーナーからの返事。なかなか現地のイメージがつきにくい返事であったが、とりあえず出かけることに。

指定された出口周辺の写真。
ほんとにこんなところに
牧場があるのか?

ハイウェイを延々と走ること3時間、指定された出口が近づいてきた。しかし、左右に広がる風景は砂漠の上に草がときおり生えているぐらい。本当にこんなところに牧場なんかあるのだろうか、と思ってしまうほど何もない。ただ、車が走った形跡のある道が砂漠の方へと続いている。これでは、道を間違えようにも間違えることができない。とりあえず進むしかないし、指示通りのハイウェイの出口を出たわけだから、この先にその牧場は必ず存在するにちがいない、そんな気持ちのまま車を進めることに。延々と続くその道は、きれいに舗装されていなかったので、スピードを落としながら前進した。ところが、進んでも進んでも延々と同じ景色が続くだけで、ほんとに何もない。家も、人も、建物も目印も何もないのである。あるのは、延々と続く道、そしてその両側に生息するわずかなブッシュや雑草。果たしてこんなところに人が住めるのだろうか?ついつい車の燃料系を気にしてしまうくらい何もないのだ。

牧場設立のきっかけは、娘さんの車椅子から

やっと目的地に着いた。
Stage Coach Trails Guest Ranch
Stage Coach Trails Guest Ranchの
オーナーたちが
暖かく出迎えてくれた。

ハイウェイを下りて1時間くらい走ったころ、遠くの方にいくつかの家らしきものが見え始めた。
どうやら、ここが私の目指したStage Coach Trails Guest Ranchだったのだ。到着し、車のエンジンを止めると、牧場の周囲には何もないためか、聞こえてくるのは風の音や、馬の鼻息だけ。家の中からオーナーの奥さんが出迎えてくれた。この牧場には、オーナーご夫婦、その娘さん、オーナーの親戚、そして数匹の犬たちが一緒に暮らしていた。彼らはWisconsin州からここアリゾナでこの施設を開くために引っ越してきたとのこと。
オーナーによれば、オーナーの娘さんは車椅子を使用しており、いつか、このように車椅子を利用する者でも訪れることができ、乗馬などが体験できる牧場をつくりたいと思っていた。それがそもそもの牧場設立のきっかけだったとのこと。
私が到着したのは午後1時頃だったのだが、オーナーの奥さんがランチをごちそうしてくれるとのことだったので、建物内のダイニングルームに案内された。食事の担当は、オーナーの親戚の方で、本格的なビュッフェ方式のランチはとてもおいしかった。この牧場では、このようにして、ここに住む各自がそれぞれの長所を生かして分業しながら、この牧場の運営を維持している様子であった。

驚いた!! 牧場で見た私が載っていた、全米版の旅行雑誌

全米版の旅行雑誌
全米版の旅行雑誌 自分の写真が
掲載されて驚き!

食後も、オーナーのご主人らと話をしていると、ある全米版の旅行雑誌を紹介していただいた。どうやら、彼らの牧場のことが、アクセシブル情報とともに紹介されているようだ。

続いて、ページをめくると、数ヶ月前雑誌のモデルを引き受けた自分の写真が載っていた。
以前、 Carolから紹介されて、雑誌のモデルを引き受けた。
そこでの写真がいつ掲載されるかは連絡してくれるとのことだったが、どうやらその知らせは私の元には届いていなかったのである。牧場のみんなは驚いていたが、一番驚いたのは私であった。

紹介記事
牧場のことが紹介されている

びっくり!! 施設づくりはオーナーたちの手作り

ランチの後、オーナーご主人と話をしていて感心したのは、この敷地内にある、あらゆる建物などは、彼ら自身が材料などを買いつけ完成させたということだ。もちろん業者の手を借りたところもあったとのことだが、それにしても、これだけのものを素人が手がけて完成させてしまうとは、ただただ感心してしまう。また、アメリカで障害者の権利を保護するADA法(American with Disabilities Act)の基準に対応するために、ADA用の建築ガイドブックを取り寄せて、それを参考に建築したとのことだった。ADAの基準を満たすには、大変な苦労や努力が必要だったと語っていた。

この施設には、乗馬だけでなく、その他、いろいろのアクティビティーが楽しめるようになっている。その一つがプール。どうやってここまで水を引いているかと聞いてみると、なんと井戸を掘ってそこから引いているとのことだ。また、周辺を走行できる4輪バギーなども体験することができる。
夜などは出かけようもないが、一体どう過ごしているのか尋ねたところ、何もしたくなければそれでいいし、また、庭に出て皆でバーベキューをしたり、キャンプファイヤーをしながら歌を歌ったりもするんだ、と言っていた。

生まれて初めての乗馬体験

このスロープで上までいき、
車椅子の人でも乗馬を
楽しむことができる
初めての乗馬。
馬の背中に乗ってみると
目線が高かった。

外に案内され、四輪バギーが保管されている倉庫や、この牧場にいる馬などを見せてくれた。その後、実際に乗馬体験をするサークルがあるところへ案内され、まずはオーナーの娘さんが乗馬する様子を見させてもらった。

車椅子から乗馬するときに必要とする器具もオーナーの手作りのオリジナル作。左側にあるスロープで上まで上り、そこで馬へと乗り換える。その際、オーナーのご主人が補助をしてくれる。

その後、牧場を散歩していると、「乗馬を体験してみないか?」と誘われた。もちろん申し出を受けたが、馬に乗るのはこのときが生まれて初めて。乗馬するために作られた特別のスロープを登り、馬の背中の高さまで行く。そして、馬に乗り込む時は、オーナーが担いでくれ、馬の背中にまたぐ。乗馬しているときは、馬の両側に人がついてくれるので安心だ。実際に、馬の背中に乗ってみると、これが結構高い。馬はゆっくりと歩いてくれたので安心して乗馬することができた。

乗馬を体験させてもらった後、今度は宿泊する施設を案内してもらった。食事や団欒をするメインのクラブハウスと、実際に宿泊する施設とは別棟になっていて、家族などの多人数が宿泊できるところから、二人用の部屋と、いくつかの種類に分けられている。私が訪れた時は、まだオープンして間もない頃だったので、オーナーから、車椅子の視点から見て何か改善してほしいところがないかなども聞かれた。基準(ADA)に従って作るだけでなく、よりよい施設を作っていこうとするオーナーの熱心な気持ちが伝わってきた。

帰途。星空のもとやすらぎの自然を満喫

今回は、この牧場の視察のみが目的だったため、その日は宿泊せずにそのまま帰宅することとした。帰る頃は、すでにあたりは暗くなりはじめ、高速道路の近くまで行った頃にはすっかり日も落ちていた。私は、車を一度停め、ギアをパーキングに入れ、ライトのスイッチを消し、エンジンキーを停止させた。あたりは静粛な空間に包まれ、空には幾千もの星が広がっていた。都会の喧騒や日常の生活に疲れたとき、また、静かな空間でゆっくりしたいとき、そんな時に訪れたい、そんな場所であった。

No.5へつづく


牧場のホームページStage Coach Trails Guest Ranch
http://www.stagecoachtrailsranch.com/
※Features for disabledのページに、マサさんが乗馬する際、
ご主人に抱えられている写真が掲載されています。